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[番外:セーラームーン先輩の当惑とビビッドレッドオペレーションのお尻問題]プリキュア時代の「男の子アニメ」の困難 [メディア・家族・教育等とジェンダー]

というわけで、プリキュアシリーズの興隆にともない、いわゆる「男の子アニメ」ジャンルの作品も各種の影響を受け、さまざまな革新が必要になっている様子を見てきました。

そしてそれは当然「女の子アニメ」の範囲内においても同様に言えることかもしれません
(正確には、「女の子アニメ」「男の子アニメ」という区分自体が無効化し、汎ジャンル的に相互作用が起きているのでしょうが、一連の本稿ではあえてジャンルを区切って述べてきました)

昔ながらのラストで「王子様と結ばれて幸せ」というようなオーソドックスすぎるプリンセス譚などは、今どきディズニーだって作りません
(ここ最近で言えば『アナと雪の女王』の相当な捻られ方がけっこう話題になっています)

そうでなくても、主人公の女の子にどのようなパワーリソースを付与し、いかなる課題を解決させていくのか、そのバリエーションはますます広がっていると言えるでしょう。


さて、そんな中で、元祖「女の子が自分で変身して戦う話」とされ、プリキュアシリーズから見て東映アニメーションで直系の先輩にあたる、『美少女戦士セーラームーン』の位置付けは、今日どうなっているのでしょうか?

ある意味では「プリキュア時代の困難」に「男の子アニメ」以上に直面する作品だとも言えそうです。

実際、セーラームーン20周年プロジェクトとしてセーラームーンの新作アニメが制作されることとなったものの、その公開は再三延期され、ようやく来たる2014年7月からニコニコ動画での配信が決まったところです。

理由は本当のところはいろいろあるのでしょうが、プリキュアシリーズが堅調な中で営業的にはわざわざ制作にリソースを割くインセンティブが東映アニメーションになかったからではとか、公開がネット配信のみでテレビ放送されないのもプリキュアの存在が遠因では?? …といった邪推は不可能ではありません。
たしかにテレビ放送枠という面では『聖闘士星矢Ω』の後番組というスッキリちょうどいい地位があったはずなのに、そこへ充当されなかったのは、やはり2時間後のプリキュアとのかねあいが理由だと言われれば、その真偽のほどにかかわらず、なんとなく説得力があるのは認めざるをえないでしょう。

『セーラームーン』旧作の功績は多大なものがあって、これがあってこそ「女の子だって変身して戦っていい」ということが人口に膾炙しました。

女の子主人公が主体的に何らかの力を持って自分で課題に立ち向かい成長していく物語の数々が以後つくられていくうえで、その地ならしの効果は絶大だったことでしょう。

また、男性との恋愛に回収されることなく複数の女の子キャラどうしが仲間として友情を紡ぎ親密性を育んでいく描写の嚆矢でもありえました。

加えて、変身や必殺技のバンク演出の定石を示し、「カワイイ女の子がかっこよく変身して戦う」様子を爽快に描写するための、アニメ表現上の基本メソッドを確立した点も評価すべきかもしれません。

とはいえ、プリキュアが10年間シリーズを重ねてきた今日、視聴者がソレを見慣れてしまった現時点の感覚で『セーラームーン』旧作を見直してみると、どこか物足りない感覚は禁じえません。

むろん、今日のデジタル制作と比べれば画面がもっさりしてる、とか、第1話のプロットも改善点が多々見つかったりするというのは、しょうがない面もあります。

しかしそれでも、主人公の「月野うさぎは、ちょっとドジで泣き虫だけど、元気いっぱいの中学2年生の女の子」という設定は、今となってはものすごく捻りのないプリミティブすぎるパラメーターに感じます
(そりゃまぁ『ドキドキプリキュア』の相田マナさんのプロフィールのほうが捻られすぎてるってのもありますが)

ストーリーの進行とともに謎が明かされていくのにともない、結局は旧来の「お姫様と王子様の物語」をかなりシンプルに引き写していることも判明します。
要するに、タキシード仮面との恋愛要素を含めて、話の大枠は守旧的な「女の子アニメ」の域を出ていない部分が意外と大きいわけです。

それを象徴するのが主題歌で、「ごめんね素直じゃなくて……思考回路はショート寸前……だって純情どうしよう」「占う恋の行方……ミラクルロマンス♪」という歌詞(作詞:小田佳奈子)は、つまるところ恋愛ソングです。

「可愛いだけじゃないのがガールズの約束」「君を信じる、ために戦う。無敵な 優しさ あつめて」と力強く歌うドキドキプリキュア主題歌(作詞:藤林聖子)などの歌詞と比較すると、かなり頼りない印象は否めないでしょう。

旧作のこうした点をきちんと総括したうえで、今般の『セーラームーン』新作アニメを、今日のプリキュアシリーズと見比べて遜色ない、それらを凌ぐ内容にしっかりリメイクするというのは、じつは『宇宙戦艦ヤマト2199』以上にハードルが上がりきっていると言っても過言ではないのかもしれません。

さしあたり、7月の配信開始を見守りたいところです。

(2014/07/14)
新作『セーラームーンCrystal』ついに始まりました。
が、あくまでも「個人の感想です」ですが、端的に言って「がっかりした!」です。
主題歌「MOON PRIDE」だけは、たしかに今の時代に合ったものになりました。旧アニ「ムーンライト伝説」の問題点を改善し、2003年実写版主題歌「キラリ☆セーラードリーム」と比べても、より踏み込んだ歌詞に進化してます。脱「王子様を待つだけのか弱い女子」!
しかし第1話本編のストーリーラインは旧アニ第1話とほぼ同一で、本当に「画面がキレイになっただけ」。いゃそのデジタル画質の「画面」も、原作により忠実になったキャラクターデザインの絵柄とあいまって、むしろよけいに全体の「古さ」を目立たせる結果にも…?
例えば、学校のシーンで「廊下に立たされる」のも、今どきリアリティのある描写なのかギモンです。それこそ20年前の時点ですでに「一昔前はこういうこともあったらしい」くらいの認識なのではないでしょうか?
聞けば「原作に忠実なアニメ化」が目指されているとのことですが、それでも2014年の新作アニメとしての矜持はもう少しほしいです。むしろ旧態依然とした内容を改めないままの状態で今の時代に放り出すほうが原作への冒涜です。
何より良くないのは、うさぎちゃんの初変身がルナに言われるままに自室でとりあえず……な点。コレはマヌケだし視聴者も燃えられないです。「友達を助けたい!→その強い思いに不思議な力が応える→変身!」でなければ本当に主人公の主体性が描けてることになりません。
旧アニ当時は、この展開の穴も「女の子が自分で変身して戦う」ことの画期的さと相殺できたのかもしれません。でも、すでに人々が例えばスマイルプリキュアやプリキュア5の第1話を知っている今では通用しません。
スマイルプリキュアもプリキュア5も、第1話はドジで泣き虫で勉強は苦手な主人公の遅刻しそうな登校シーンから始まり、その途中で妖精と出会い、その後いろいろあって初変身→戸惑いながらも戦って敵を撃退…という基本プロットもセーラームーンと共通しているので比較しやすいのですが、各主人公みゆきものぞみも確固たる意志をもって襲ってきた敵と対峙していて、ソレにプリキュアの力が応えることで初変身という形になってます。
だからこそ、主人公として自分はこうしたいんだという明確な主体性の描写にもなっているわけです。対照的にうさぎちゃんはほとんど何も自分で考えていないことになっちゃってるのです。
その意味では「Crystal」よりも11年前の2003年実写版のほうが適切な改変をキチンとしているという点で健全な進化形となっているとさえ言えるでしょう。
2014年の新作アニメが「これでいい」とするのは、あまりにもおざなり。いわば「今の時代にも見劣りしない内容にしっかりリメイクするには上がりきっているハードル」、その1コ目を、せめて盛大に蹴り倒すくらいさえすることなく、あろうことか堂々と下をくぐってこられた感を禁じえません。
(2014/07/14)


※【参考】美少女戦士セーラームーン20周年プロジェクト公式サイト
 →
http://sailormoon-official.com/


  


一方、この「プリキュア時代」ならではの、いわば「ジャンル・プリキュア」とでも呼べる作品群のほうは、どんな具合なのでしょうか。

例えば『輪廻のラグランジェ』がプリキュアをロボットアニメに置き換えた内容だとはすでに指摘しましたが、より典型的な近例としては、まずは『戦姫絶唱シンフォギア』が挙げられます。

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そして『ビビッドレッドオペレーション』。

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両作品とも深夜アニメですから、関連商品等の対象者がプリキュアシリーズのように直接的に幼い女児というわけではない点が異なりますが、内容は、まぎれもなくプリキュア的コンセプトを取り入れています。

そしてきちんと勘所を押さえつつも、深夜ゆえに、昼間のアニメなら受ける制約がない分、より挑戦的なつくりになっている部分だってあるのです。

『シンフォギア』のように戦いを指揮する政府機関の秘密基地が学校の地下に作られていたりするのは、女の子主人公の作品ではやはり斬新です。

科学者である祖父の発明品のパワーで、その孫娘である主人公が変身する『ビビッドレッドオペレーション』なら、[ 科学←→魔法 ]軸線が大きく科学寄りに振れています。

警察や自衛隊との協力・共闘のような描写には賛否両論あるかもしれませんが、その作品世界のリアリティの構築に一定の効果を上げるという側面は否定できません。

いずれにせよ、さまざまなバリエーションが試みられることで、作品群の中での多様性が広がっていくのは悪いことではないでしょう。

ただ、「深夜番組ならではの制約のなさ」というのは、特定のニーズ向けの「サービス」もふんだんに盛り込まれるところともなります。

プリキュアシリーズでは禁じ手となっている水着や入浴シーンも逡巡なく描写されます。

このため「ジャンル・プリキュア」作品群にあってさえ、いわゆる「男目線による女性キャラクターに対する性的消費」という問題とは無縁でいられません。

むろん、例えば入浴シーンというのも、結果的には「サービス」として機能するにせよ、いっしょに入浴する女性キャラどうしが「裸のつきあい」を通じて親密度を上げるプロセスであるという、作劇上の意味がある(この下の画像も、入浴中に右側の少女の身体に目立つアザがあることを知った左側の少女が「アザぐらい誰にだってあるよ! 気にしないで無問題!!」と自分の蒙古斑を見せようとお尻を突き出している……という場面であり、入浴にも左側の少女のポーズにも、描写として合理的な必要と必然がある)場合が普通です。

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またたとえ「サービス」シーンが一切なくても、単純にそれによって性的消費の視線が抑止できるわけでもないでしょう。

例の『宇宙戦艦ヤマト』旧作でのアナライザーによる森雪へのスカートめくりのように、もっぱら女性キャラを男性の性的対象としてのみの存在に貶めた価値観が作中にビルトインされていた時代に比べれば、少なくとも現在では作品世界の内部においては、相当にセンシティブな考慮がなされているほうがデフォルトです。

したがって、深夜アニメの中の「サービス」シーンに対して過剰反応を示すことは、注意深く戒められなければなりません。
これら、作品の中の性的表現の問題は、いろいろな要素が複雑に絡んだものですから、この場ではすべて考察しきれませんが、この点はまた追って取り組んでいきたいと思います。

しかし、それでも『ビビッドレッドオペレーション』の「お尻描写」に関しては、いささか過剰だったのではないかという思いが拭えません。

はたして、ここまで執拗に「お尻」にこだわった画面構成が必要だったのでしょうか?

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繰り返しますが性的な要素が作品に含まれること自体が直ちに悪いとは思いません。

しかし「お尻」はジャンルもタイトです。
どこか監督のフェティシズムに付き合わされたような気分が残ります。

身も蓋もないことを言うなら、べつに作品内に直接そういう描写がなくったって、見る人がいろいろ自由に妄想することはできます。
それを「2次創作」で再度作品化することだって可能ですし、そうした作品が発表され、見たい人がそれにアクセスする道も、今日では容易に確保されています。

そうした点も計算に入れて、『ビビッドレッドオペレーション』という作品について、より幸福な形で世の中に送り出すにはどうしたらよかったかを考えると、むしろ「お尻描写」は封印したほうが、その結果「土曜の朝の1年もののアニメ」としての制作が可能になり、より多くの人にこの作品の良さを知ってもらえたのではないでしょうか。

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§画像は放送画面より。この一連の記事中同じ

「お尻描写」だけが豊満に肥大した結果、『ビビッドレッドオペレーション』の評価がそのことに矮小化されてしまうのは、残念でなりません。

  


 


[6:宇宙戦艦ヤマト2199の試練]プリキュア時代の「男の子アニメ」の困難 [メディア・家族・教育等とジェンダー]

『ドキドキプリキュア』の総括記事の中でも少し触れましたが、2013年には、往年の『宇宙戦艦ヤマト』を今風にリメイクした『宇宙戦艦ヤマト2199』が(イベント上映→パッケージソフトウェア発売という流れの中で)地上波でテレビ放送されることとなりました。

旧作『宇宙戦艦ヤマト』は、たしかに一世を風靡した作品であり、日本のアニメブームを語るうえで避けて通ることのできない重鎮と言える存在です。

ただ旧作が制作されたのは1974年。
その時代的な限界か、全体像を概観しただけでもジェンダー観点からの評価には耐えないことが明らかな作品でもあります。

ヤマト乗組員が紅一点の森雪以外はすべて男性で、必然的に艦内での「ケア労働」および「補助的労働」は全部 森雪の役目となっています。

あまつさえロボットのアナライザーにスカートめくりをされるなどのセクハラ被害に遭ったりしますし、その点を直訴されたときの沖田艦長の対応もまた(現実の企業社会で女性構成員がセクハラ被害を訴えても男性上司が真剣に応対しない事例を引き写したように)のらりくらりとしたものだったりするのです。

そうして、全体を貫くテイストはあくまでも「戦う男、燃えるロマン」(←主題歌2番の歌詞[作詞:阿久悠]より)。

山場であるドメル将軍との艦隊戦などは、まさに「男と男の戦い」といった雰囲気で価値あるものとして描かれたりしていたものです。

そんな『宇宙戦艦ヤマト』のリメイクである『2199』が、多少の設定とストーリーの改変を施され、絵柄がキレイになったくらいで、見る価値のあるアニメに生まれ変わるのかどうかは、はなはだ疑問でした。

いっそのこと、女子が嗜む武道・宅配道に勤しむ黒猫女学園の女子高校生たちが、廃校の危機を回避するために16万8千光年の彼方まで荷物を集荷に行って戻ってくるミッションクリアに挑む物語『宇宙宅急便クロネコヤマト』!」くらいまで翻案する(…それはソレで見てみたい気も(^o^;))ならともかく、『2199』は旧作に忠実なリメイクというふれこみです。

しょせん骨組みは旧作の『宇宙戦艦ヤマト』。それをちょっとリフォームしたところで、あたかも「戦艦大和」を「宇宙戦艦ヤマト」として甦らせるがごとく、上手いこと今どきの鑑賞に耐える『2199』に再生できるものでしょうか?

ましてやオンエアされるのは日曜日の夕方。
同じ日の朝には『ドキドキプリキュア』も放映されており、かつての『ヤマト』と同じ「テーマは愛」を標榜したうえで、相応のクォリティを保った物語が進められているのです。

朝にソレを観たばかりの視聴者をじゅうぶんに納得させるには、旧作のような、勢いでガミラスを全滅させ、すべてが終わった後になってから、とってつけたように「僕たちがすべきことは戦うことじゃなくて愛しあうことだった!」というようなセリフを入れてお茶を濁す展開では、到底無理なことも明白です。

生半可な姿勢でのリメイクだと、映像だけは美しい、見るに耐えない作品が1本出来上がるだけ。
そうならないように、本当にしっかりと取り組むのだとしたら、そのハードルは相当に上がってしまっている――。

そんなわけで、元々、旧作にはハマり、続編の劇場版『さらば』には涙し、しかしそのラストを改変した『2』以降節操なく続編が作られ続けて興ざめして以来、『ヤマト』はすでに自分の中では「終わコン」となっていたワタシとしては、『2199』にもさしたる期待を抱くことはありませんでした。


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§画像は放送画面より。この一連の記事中同じ


はたして、放送開始から数話にわたってチラ見したところでは、その予測はおおむね外れていませんでした。

たしかに映像はキレイです。
旧作の設定の杜撰だった部分はしっかり造り直され、全体として今風のアニメに仕上がっています。

そして「ジェンダー」面でも今の時代に合わせた改善が図られています。
数的にも質的にも女性乗組員が増強されていました。

それでも、この時点では、あくまでも類型的な「女性の社会進出」描写、男目線の男女共同参画。「ジェンダーの問題も配慮してあげましたよ」という恩着せがましさが、かえって鼻につくような印象さえしないではありません。

当初は「女性らしい」部署に配属された山本玲が念願どうりに艦載機パイロットに配置替えされるまでのエピソードも、深夜アニメのようなカッとび方とは、まだまだ乖離がある凡庸さを感じました。

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そうして、端々に滲むホモソーシャルのマッチョな価値規準。

やはりしょせんは「ニッポンの男のアニメ」。
その骨組みはいかんともしがたいのでしょうか。

沖田艦長も、油断すると「これは男と男の約束だ」みたいな台詞を口にします。

話数としては後半にあたる、ドメル将軍との決戦編のくだりも、その意味では旧作のテイストがほとんど忠実に再現されることになります。

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ドメル将軍が、決戦を前に、待ち伏せするためにヤマトの航路を推理する際などは、「もしヤマトの艦長が、私が思ったとおりの【男】なら……」なんて言ってます。
その数話後ではデスラー総統までが、人質状態の森雪に、「ヤマトの艦長はどんな【男】だね?」と尋ねたりします。

しかし、その時点ではドメルもデスラーも、沖田艦長に会ったことはないわけですし、その人物像についての情報もほとんど得ていない(だからこそ推測や質問をしている)わけです。

それなのに、なぜ【男】と決めつけている!?

……………。

いゃー、コレ、ヤマトだから結果的には正解してますけど、もしも相手が「弁天丸」だったりしたら、どうするつもりだったのでしょう!?
顔を合わせたときにめっちゃ気まずいでっせ(^o^;)。

「ど~も、加藤茉莉香でーす。コスモリバースシステム、受け取りにあがりました~」

冗談をさておいても、女子高生海賊・加藤茉莉香の弁天丸船長ぶりを総合評価すれば、沖田艦長にも決して引けを取りません。

そういう女性キャラクターが、日本のアニメ界にはすでに存在するにもかかわらず、このような決めつけをセリフに織り込んでしまうのは、あまりにも不用意だとの思いを禁じえません。

そういった雰囲気を、最初の数話で感じたワタシは、やはり『宇宙戦艦ヤマト2199』には見る価値ナシ――、そういう判断に至りつつあったのです。


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そんな評価が覆ったのは「第10話:大宇宙の墓場」でした。

※【参考】NAVERまとめ《宇宙戦艦ヤマト2199》旧作との相違点[第10話 大宇宙の墓場]
 → http://matome.naver.jp/odai/2137050341406711201

この回は、ヤマトが次元断層に陥ってしまい、偶然近くにいたガミラス艦と協力しあう以外に脱出の方法がない……という状況になるのです。

さりとて敵を信頼しても大丈夫なのか?
そんな約束が本当に成立するのか??

そんな中、交渉のためにヤマトへやって来る1人のガミラス人。
それが若き女性将校、メルダ・ディッツ少尉でした。

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ここで、それまでは「謎の敵」であったガミラスが、地球人と同様の人間体であることが、作中の地球側にとっては初めて判明します。
しかも女性! …と驚くヤマト乗組員も少なくありません。

旧作での、このシークエンスに該当するエピソードでは、ガミラス人の捕虜は「普通に」男性でしたから、ここでもリメイクにあたってのジェンダー配分の再考が見られます
(次元断層とそこからの脱出という枠組みの部分に関しても、旧作とは異なる経緯に変えられています)。

そしてこれが、兄を殺されガミラスを憎んでいた山本玲と、ガミラス将校メルダ、『2199』へのリメイクによって初めて女性キャラとして配置されることになった2人の邂逅でもあったのです。

仇敵だと思っていたガミラスは「同じ人間」で「同じ女性軍人」、しかも今から協力しあう関係。
はたして、そんな敵だったはずの相手と確執を乗り越えて手を取り合い親交を深めることが可能なのか!?

……………。

驚きました。

なんとこのとき提示されたこれらの命題
すなわち「敵との約束は信頼してもよいのか」と「敵と仲よく友だちになれるのか」。

同じ日の朝の『ドキドキプリキュア』とまるカブりではないですか!!

※【参考】東映アニメーション公式サイトあらすじ
「第19話 クリスタルをかけて!ジコチューのゲーム!」
 → http://www.toei-anim.co.jp/tv/dokidoki_precure/episode/summary/19/

まさかの『宇宙戦艦ヤマト2199』がプリキュアと同じ題材に挑戦っ!?

たしかに、同じ日にそこまで内容が重なったのは偶然かもしれません。

それでも、この一件で、『2199』がプリキュア的な何かに取り組もうとしているという手応えは明らかになったと言えるでしょう。


そう思って、ひとつ前の回「第9話:時計仕掛けの虜囚」を見直すと、これは旧作には直接対応するエピソードがないオリジナルなストーリーだったのですが、テーマ的には「ロボットにも心はあるのか?」という問題を扱っているという点で、上述したアナライザーが森雪にスカートめくりを仕掛ける回と対応します。

※【参考】NAVERまとめ《宇宙戦艦ヤマト2199》旧作との相違点[第9話 時計仕掛けの虜囚]
 → http://matome.naver.jp/odai/2136991241174413201

つまり旧作当時は、人間と同様の感情があることを示唆するためにアナライザーにさせることがスカートめくりだったわけです。
これは往時の制作者の発想の貧困と言わざるを得ないでしょうし、1974年というのがそうしたセクハラ行為描写がまったく問題視されずに許容される時代背景だったのも確かです。

しかしそんな「ロボットにも心はあるのか?」という同じテーマの回が、旧作のようなセクハラ回から、『2199』では9話の見事に叙情的で美しいエピソードに改変されてたあたりからも、制作陣がリメイクにあたって何をすべきかよくわかっていることを窺えたかもしれません。


そうして、11話で反目を乗り越えて一定の親睦を深めた山本玲とメルダは、後半で再会した後は、さらに信頼関係を強めていき、地球とガミラスとの和解へ向かう流れの象徴的な存在となります。

他の女性キャラも含めた関係性描写も、どんどん厚くなっていきました。

そして歴史に残る22話。
山本玲とメルダたち女性キャラがヤマトの食堂に集って、みんなで特製のパフェを食べながら女子トークを繰り広げるという場面が描かれます。

「地球のため、も大事だけど、友だちといっしょにチョコパフェ食べたりする、ごく普通の日常が大切で、それこそが何よりの平和……」
初代『ふたりはプリキュア』の第1期エンディング主題歌では、後々のプリキュアシリーズ全体にも通ずる、そんな趣旨が歌い込まれているように、【パフェ】を囲む女子というのは、まさに象徴的です。

『宇宙戦艦ヤマト2199』が、もはや旧作『宇宙戦艦ヤマト』ではない別の何かに変容したことが確実になったことを高らかに宣言するシーンだったと言えるでしょう。

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この後のガミラス本星での最終決戦では、メルダの協力のおかげもあって、ヤマトは有利に首都攻略をすることができます。
余裕のある状態ゆえに、民間人の被害も抑えられ、旧作のように必死の反撃を続けた結果ガミラスを壊滅させてしまうこともありません。

そして逆に、狂気にとりつかれたラスボス状態のデスラー総統によって破滅のピンチに瀕してしまった首都を、(ヤマトだけとっとと脱出するという選択も可能だったにもかかわらず)波動砲で危機を除去し、以てガミラスの大勢の人々を救うという結果をもたらしたのです。

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あと、山本玲×メルダの他にも、地球・ガミラス両陣営間での女性キャラの関係描写として森雪×ガミラスの諜報を司っていたセレステラの交流がありました。

地球への途に就いたヤマトが、じつはまだ生きていたデスラーの追撃に遭い、艦内で白兵戦となった際に、森雪が命を落としてしまう原因は、旧作では「だって古代くんが死んじゃう」と試運転が済んでいない「放射能除去装置」を動かしたことですが、『2199』では、銃撃からセレステラを庇った結果になっています。

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すなわち、女性キャラにとって守るべき大切なものが、異性愛的な価値規準に基づいた「男」よりも、女性どうしの関係性のほうに改変されたのだと読むことが可能です。


というわけで『宇宙戦艦ヤマト2199』、たしかにいわゆる「熱い男のドラマ」が見たい層に対してはアリバイ的に旧作そのままの昭和仕様と思える部分も入れていましたが、つまるところ特に中盤から終盤にかけては、物語を動かしていく鍵となったのは、女性キャラどうしの関係性進展を取り巻くものでした。

大切なのは、相手との関係性の中で相互に配慮しあい、気持ちを尊重しあい、ときに癒しあうこと。
そしてそんな中で、より多くの人々との間で共感・協調・共生の輪を広げていくことこそが問題解決の糸口となることが提示された展開は、まさに「ケアとキュア」に立脚した物語です。

そうして、そこで何が描かれたのかを端的にまとめれば……
敵とも友だちになる
敵陣営の人々をも助ける

……………。

これはもう、

なんというプリキュア展開! (^o^;)

地球とガミラスの間で起きた紛争を、おそらくはプリキュアであればこんなふうに解決したにちがいない、その様子を『2199』は、『宇宙戦艦ヤマト』の枠内で可能なかたちで描き出したのでした。


こうして、旧作に忠実なリメイクという体裁を維持しつつ、旧作とはまったく異なるコンセプトの別の物語に生まれ変わった『宇宙戦艦ヤマト2199』

誤解を恐れずに極論すれば、『ヤマト2199』は【宇宙戦艦ヤマトの皮を被ったプリキュア】だったと言えるでしょう。

  


◎そんなわけなので、2014年12月に公開されるという『宇宙戦艦ヤマト2199』を受けて制作される劇場版新作、その内容はもう『2199』のストーリーをプリキュア風に再解釈したオリジナルアニメでイイんじゃないかなという気がしてきました(^^ゞ
サーシャとユリーシャというイスカンダル王国から来た妖精に請われてユキ、マコト、ユリア、アキラらが「伝説の戦士」に変身、ガミラスランドの繰り出すユウセイバクダーンと……w
てゆーか、仮にそこまでの改変を加えたとしても、『2199』の基本的なストーリーラインは維持できそうなところが、もはや何をか言わんやですね。


◎ヤマトがイスカンダルまで受け取りに行くのが、旧作の「放射能除去装置」から『2199』では「コスモリバースシステム」なるものに変更され(その理由はいろいろあり、各種の大人の事情が絡んでいることも推察されるものの、旧作のように海が干上がり生態系が壊滅してしまった地球から放射能だけ除去しても元のような青い地球になるのは無理なので、それも考慮すればやはり正しい改変ということになる)ましたが、その設定もまた、まさかのプリキュアで敵を倒したら破壊された箇所も元どおりになる、いわゆる「謎修復」を、もっともらしい科学的説明をつけて装置化したものとでも呼べるものだったりしました。

 


[5:機動戦士ガンダムの隘路]プリキュア時代の「男の子アニメ」の困難 [メディア・家族・教育等とジェンダー]

さて今年・西暦2014年は『機動戦士ガンダム』35周年でもあります。
さしずめ「宇宙世紀0114年」ということになるでしょうか(^^)。

ウルトラマン、仮面ライダー、そして戦隊シリーズにくらべても多少は歴史が浅いガンダムですが、ここまで来ると、それももはや有意な差とは言い難いかもしれません。

ガンダムシリーズもその後数多くの作品が作られて今に至っていますので、やはりすでに日本を代表するシリーズの一角を占めていると言ってよさそうです。

では、そんなガンダムシリーズへのプリキュア要素導入は、いったいどのような現状なのでしょう?

端的に言って、一概には語れません。
作品ごとにさまざまなバリエーションがありますし、物語の構造も複雑で難解な度合いが高いですから。

大枠としては、リアリティにこだわって戦争を描いてきたガンダムシリーズでは、モビルスーツは軍の所有物ですし、作中の戦いもまた「公」的な「正義」に基づく面が基底にあるのは否めません。

その一方で、モビルスーツの搭乗者名鑑をひもとけば女性パイロットも少なくなく、その内実はともかく、書類上の「男女共同参画」具合においては戦隊シリーズをも凌ぐ勢いだったりもしますから、そこに「女性的な視点の物語」を描き出すための可能性が常に潜在していると読むことも不可能ではないのです。

また初代ガンダム第1話を見なおしても、アムロ少年がガンダムに乗り込む最大の動機は「みんなを守りたい」気持ちになっています。
その後の中盤の回では、粛々と戦争を進める軍の論理にクレームをつけたために、軍のエライさんからアムロが殴られる描写なども、「正義と秩序」と「ケアとキュア」の葛藤を、じつは描き出していたと見ることもできるでしょう。


 


ただ、実績として今のところは、『ウルトラマンギンガ』の如く大胆にプリキュア的要素を取り入れたガンダム作品は現れていません。

「高校生が主人公の、学園もの要素を導入したガンダム」など、やろうと思えばじゅうぶん可能なはずなのですが、なかなか思い切って踏み切れないのでしょうか。

強いて言えば『機動戦士ガンダムAGE』の16~18話、いわゆるアセム編の冒頭の3話が、それに近いものを描いていました。

なかなか評判は芳しくなかった『ガンダムAGE』ですが(私も女性キャラの扱いなどの観点からはかなり批判しました)が、その中にあって、この16~18話は総じて好評だった印象があります。

やはりここにこそ、今後のガンダムシリーズの可能性が秘められているのではないでしょうか?

………やっぱり僕の妹はガンダムに乗れるかな(^^ゞ


 


あと、2013年10月~2014年3月に放映された『ガンダムビルドファイターズ』も、ガンダムシリーズの新機軸を拓いたと言えそうです。

ことに「ベアッガイ」の人気などには、いろいろな面から意義があるのではないでしょうか。


 



◎せっかくなのでこの機会に少しクライマックス部分を書いてみました(^o^;)
『 僕の妹はガンダムに乗れる 』
第12話「【最終回】生きるのをあきらめないで!
      今こそ宇宙に心の花を咲かせよう」 by 佐倉智美

  (前回まで)
 [ 第1話第2話第3話第4話~


「やめて、ユリナ。もうやめて!」
ユノアはガンダムのコクピットから叫び続ける。
その間もユリナが搭乗したフォーンファルシアから放たれたフローラルビットからのビーム攻撃が宇宙空間を切り裂いていく。
コロニーに、みんなの大切なトルディアに当たったりしたら大変だ。
「ユリナ、目を覚まして。こんなことしたって何にも……。今なら間に合うよ。もう一度いっしょにアタシたちとと……」
通信回線がユリナの側から切られることはなかった。
「キレイごと言わないで! アナタに何がわかるの!? 私のこの気持ちなんて誰にも……」
ユリナの言葉に続くようにフローラルビットの一群がガンダムに向かってくる。
「ユノア、囲まれたらヤバいよ」
後席のカノンが言うのとほぼ同時にユノアはジェネレーターの出力を上げた。
「ヤバい、ヤバい」
「大丈夫だよ、ハロ」
ホリゾンタルインテグレーションAGEデバイスによって進化した、複座式のガンダムAGE-XPエンゲージの性能には余裕がある。
大きめの機体にはなったが動きは敏捷性が高まっているとユノアは感じた。
装甲が物理攻撃に耐える力も増しているはずであった。
それでもビームの直撃を避けながら、フォーンファルシアに近づいていくのは容易ではなかった。
「ユノア、もう引け。こうなったらもはやこれは軍の仕事だ。それしか……」
戦艦ディーヴァのブリッジにいる父・フリットからの通信が入った。
「ダメ! それはダメ、お父さん、もう少し……もう少しだけ待って!」
「ユノア!」
「わかってる。でもこれは……アタシがやらなくちゃいけないことなのっ」
「いかん。これは命令……」
そんなフリットの肩をたたいて制止する者がいた。
「父さん」
「アセム」
「もう少し、ユノアたちに任せてみようよ」
「どういうつもりだ。お前、それがどういう……」
「わかってる。大事な妹が心配なのは父さんと同じだよ。でも俺、見てみたくなったんだ」
「見て……?」
「ユノアが、俺や父さんとは違う方法で戦いを終わらせるところを」
「違う……方法だと?」
フリットは完全に納得してはいない素振りを示しつつも、とりあえずは強硬な措置をとることは保留する形になった。
アセムは、そんな父と、外の様子を見比べながら思った。
(ゼハート、君ならこの戦い、どう見る?)
あの少女の苗字が「ガレット」だったことは、ゼハート・ガレットとは直接の関係はなかった。
だが、そのことがアセムに、あのかけがえのない友と過ごした学園での日々を思い起こさせるのにはじゅうぶんだった。
その思いの数々を重ねながら、アセムは妹の戦いを見守った。
そのとき、じつはフリットの心にも去来するものがあった。
(ユリン、もしも今なら……)
群青色の髪にすみれ色の瞳、名前はユリナ。
娘ユノアが新しい友だちだと連れてきたあの少女が、フリットに、かつて自分が守りきれずに死なせてしまったユリン・ルシェルのことを思い起こさせるのは必然だった。
かつてのユリンにそっくりなあの少女を、今ここで、自分の愛娘がその手で救済することができるのなら――。

(中略)

フォーンファルシアのビット攻撃は、後席のカノンがフィンファンネルを巧みに操って対処してくれている。
カノンのXラウンダー能力も高まっているようであった。
「ダメだわ、ユノア。ユリナの悪意がますます強くなってるの感じる」
「そんな……」
フォーンファルシアのフローラルビットが開いた状態は、その名のとおり花が咲いているような形状をしている。
それがいくつも、宇宙空間で光を放つ様子は、まるで星々の中に咲き誇る命のきらめきのように見える。
(……美しい)
脈絡なくユノアは思った。
攻撃用ビットは元々はシンプルに漏斗のような形をしており、フィンファンネルのように形状はもはや「フィン」であっても「ファンネル」と呼ばれるのがその名残りである。というような細かな経緯までは、このときユノアは知らなかった。
フォーンファルシアは機体自体もまた、丸みを帯びた優美な姿をしている。
(ガンダムもいいけど、どうせならああいう可愛いモビルスーツもよかったな……)
だがそんな空想にひたる時間など一瞬しか与えられない。
もはやユリナにとってはガンダムは憎き仇敵でしかないのだろうか。
「物理攻撃だけじゃ、消耗する一方だよ、ユノア。一気に決めないと」
「わかった」
限界についてのカノンからの示唆を受けて、ユノアも意を決した。
「ハロ、お願い。ユリナを助けてあげたいの。力を貸して!」
「OKハロ~。レインボーキュアメガキャノン発動ハロ」
ハロに憑依しているワクチンプログラムがまたデータを転送すると、HI-AGEデバイスが光る。
七色の光とともに現れたのは、意匠も新たな長身の砲。並々ならない風格を発している。
「スゴイ。これならいける!」
カノンがフィンファンネルで牽制している間にユノアはフォーンファルシアに照準を合わせた。
「ユリナ、今助けてあげる。頼んだよ、レインボーキュアメガキャノン」
祈るような気持ちでユノアは撃った。
「ガンダムレインボーキュアシュート・ハイパーメガ~~っ!」
進化前のライフルに比して数倍の優しくまばゆい光がほとばしり、それがフォーンファルシアを包んだ。
「やった。ユリナっ」
浄化完了!
ガンダムは闇のウイルスプログラムが除去されたフォーンファルシアに近づいた。
「ユリナ、ユリナ、聞こえる?」
しかしユノアの呼びかけに応答はなかった。
通信回線のステータスは接続中になっているが……。
と――
ガシンッ!
機体が衝撃を受けた。
フォーンファルシアの左手がガンダムの頭部を荒々しく掴んでいた。心なしか黒いオーラが機体の表層に渦巻いているようにも見えた。
「えぇっ」
「……浄化、できていない?」
ユノアとカノンが驚くコクピットに、心の奥底から絞り出した呪詛のようなユリナの声が響いてきた。
「……助けてあげる、そんな上から目線で」
「!」
「この私の絶望が、癒せるもんかぁーーーっ」
掴んだ手を放すと同時に蹴り飛ばしたガンダムへ向けて、ユリナの怨嗟のすべてを込めたように、フォーンファルシアの右腕がファルシアバトンを一振りした。
まるで魔法少女が魔法を使うかのような姿だったが、闇のウイルスプログラムは実際に魔法的なパワーを生み出している。
ガンダムは塵芥が吹き飛ばされるように薙ぎ払われた。
「きゃ~っ!」
まずい。
ガンダムAGE-XPエンゲージの機体がトルディアに激突しそうになる。
パイロットが悲鳴を上げている間に作動したARCによって、かろうじて減速した機体はコロニーの外壁に軟着陸する形になった。
「くっ」
体勢を立て直そうとしたユノアだが、ガンダムの姿勢が整う前に、追撃してきたフォーンファルシアに優位を取られてしまう。
ユノアたちをトルディアの外壁に押さえつけ、睥睨するように立ちはだかるフォーンファルシア、そしてファルシアバトンの先端がメインカメラのすぐ前に映っていた。
「どうして浄化できなかったのかしら」
「……何かが、足りなかったんだ、きっと、今のアタシたちに」
そんな無力感に襲われる2人の疑問に答えるかのように、ユリナの音声が通信回線から聞こえてきた。
「ムカつくんだよ、ユノア・アスノ。アンタみたいに、性格明るくて、友だち多くて、毎日楽しそうで、オマケに家柄だって……」
怨念に満ちたユリナの言葉にユノアは戸惑う。
「そんな、アタシはただ……」
戸惑うユノアにかまわずユリナは続けた。
「じゃあ知るがいいさ、私の地獄を。アンタなんかが絶対経験したことない悲哀を……」
ファルシアバトンがさらにメインカメラに押し付けられた。
「ユノアっ!」
カノンがおもむろにユノアの手を取った。
「流れこんでくる、ユリナの思念が」
「えっ」

(中略)

「そ、そんなことって……」
衝撃の事実にユノアは狼狽えながら絶句するしかなかった。
身体の震えと、涙が止まらない。
「ごめん……ユリナ、アタシのせいだ、アタシのせいで……」
そんなユノアをカノンは咄嗟に背後からギュッと抱きしめた。
「ちがうよユノア。ユノアは悪くない!」
HI-AGEデバイスは光を失って沈黙している。
「ユノア、悪くない。ユノア、悪くない」
ハロも通常モードで、カノンの言葉を反復するのみだった。
「アタシ……」
ユノアは無意識のうちにハロを手に取ると、ぬいぐるみか何かにそうするように抱きかかえた。
混乱が収まらないユノアに代わって、カノンが反駁した。
「ユリナ、聞いてる? あなたの気持ちはわかった。ユノアが落ち込むのも無理ない。でも、ちがうよ」
ユリナが自分の言葉を少なくとも音声としては耳に入力している気配を確かめながら、カノンは続けた。
「ユノアだって、ただ単にいつも幸せだったわけじゃない。お父さんと意見が対立したり、お兄さんへの気持ちに葛藤したり、アスノ家の名を継ぐ者としてボランティア先の人たちへの接し方に悩んだり……。そうやって、ちょっとずつ自分と周りの距離を調整しながら、自分の居場所を育てて、自分のやりたいことを見つけてきて、それで、今のユノアがあるんだよ。だから……」
そこで、またユリナがカノンを遮る。
「黙れ。黙れ、黙れ……。そのくらい何だ。それに、いつだってオマエがそばにいたんじゃないか。ひとりぼっちじゃなかったんじゃないか」
「黙らない! 聞いて」
先ほどとは逆にカノンがユリナへ向けて思念を送った。
「そんなことない、そんなことないヨ……なかったでしょ?」
「…………」
少しだけ、ユリナの居ずまいが先ほどまでとは変わったように感じられた。
「私とユノアだって、誤解して、すれ違って、ケンカして、いっぱい傷つけあって、それでも、そのたびに仲直りして、ここまで来たんだよ。だから、ユリナとも……」
「うるさい! うるさいうるさ~い!」
そんなやりとりを意識の隅に捉えながら、ユノアはようやく放心状態から回復してきた。
カノンが自分を弁護してくれていることは嬉しかった。
「ありがとう、カノン」
「アリガトウ、カノン、アリガトウ……」
ハロの復唱を聞いて、ユノアは心の中で思っただけのはずの言葉が、口から出ていたことに気づく。
そして、ふと思った。
そういえば、どうしてハロにはワクチンプログラムが憑依したんだろ?
こんなワクチンプログラムがなくて、あまつさえハロに取り憑いたりしていなければ、ユリナの「計画」はガンダムに邪魔されることもなく進んでいたはずだ。
いったい、このプログラムって?
(…………)
やおら頭をフル回転させるユノアは、やがてひとつの仮説に行き着く。
!!
そうか、そうなんだ、きっと。
証拠はなく、憶測の域は出ない。
でも、そう考えたときだけ辻褄が合う。
「まちがいない」
すべてが1本の線でつながった気がした。
「ユリナ!」
ユノアがいきなり叫んで驚いたのは、さしあたりカノンだった。
「ゴメン。……復~活!」
ユノアはふり向いて微笑むと指でピースサインをつくる。
そして、今一度、ユリナに語りかけはじめた。
「ねぇユリナ、あなたが闇のウィルスをプログラムしたとき、このワクチンプログラムもいっしょに生まれたんでしょう?」
「…………」
ユリナは沈黙をもって、ユノアの推論の否定をしなかった。
「それはユリナが、本当は誰かに止めてほしい。誰かに気づいてもらって、そうして、すべてリセットして、もう一度やりなおしたい……そう思ってたからじゃないの?」
「…………」
「心の奥底では、友だちがほしい、楽しく学校に通いたい、そう願ってたんじゃないの。だからこそ、転校してきて、アタシたちと友だちになったとき、毎日休み時間におしゃべりして、いっしょにお昼を食べて……、あのときあんなに楽しそうに笑ってたんじゃないの?」
ユリナの思念のゆらぎが少し伝わってきた、ような気がした。
「モビルスーツ大会のときも、学園祭のときだって、あんなに喜んで、はしゃいでたじゃない。あれは偽りじゃない。そうなんだとしたら、アタシ何か釈然としなかったんだ。でも、あれが、あれこそがユリナの本当の気持ちなんだって思ったら、全部納得いった」
「…………」
「だとしたら、やっぱり戻れるよ。アタシのこと、許してもらえないならしかたない。アスノ家としての責任の取り方は、これから考える。それでも……」
ここで息を継いだユノアは、軽く一瞬後ろを見返ってはカノンの手を握り返しながら続けた。
「それでもアタシは、ユリナともういちど友だちになりたい。ううん、今でも、今だって、つねにすでに友だちだって思ってる!」
ユノアの言葉を予測していたカノンが、ここでその意図を補う。
「そうだよ、ユリナ。また友だちとして、トルディアでいっしょに暮らそうよ!」
ユリナの心の慟哭が今度は明確な波動としてユノアにも感じられた。
「なんで……、なんでだよ。なんでそんなこと言えるん……」
「だって、それは……」
ピロ~~ン♪
ユノアがユリナの嗚咽に応えようとしたとき、突然ハロが通知音を鳴らして反応した。新たに眠っていたプログラムが覚醒したようだった。
「トモダチ、トモダチ、もうトモダチ……」
HI-AGEデバイスが、いつになく神々しく光りはじめた。
ユノアは反射的に操縦レバーを動かす。
スラスターを最大出力で吹かしたガンダムAGE-XPエンゲージは、フォーンファルシアを抱きかかえるようにトルディアの外壁から離れると、そのまま虹色の輝きに包まれた。
「何だあの光は。何が起こっている」
ディーヴァのブリッジでフリットは声をやや荒げた。
「あの光……?」
アセムもまた、ただならぬ輝きを訝らずにはおれない。
(でも、すごく激しく眩しいのに、なんだか優しくて、あたたかい感じがする……)
やがて他のクルーからは、口々に感嘆の声が漏れた。
「おぉー、あ、あれは」
「まさか、まさに」
「……天使!」
輝きが一段落した宙空に現れたモビルスーツ大の人影は、まさしく天使と見まごう気高い姿の、ユノアとカノン、そしてユリナもいた。
「ガンダムAGE-XPエンゲージ・ファイナルシルエット!」
やはりユノアたちと同じ比率になって見えているハロからの情報だろう。巨大ユノアは律儀にそう名乗ると、ポーズを決めた。
そうして巨大なユノアとカノンが軽く目配せして手を取り合うと、宙空を飛翔するようにゆっくりとユリナに近づき、そして優しく包み込むようにユリナを抱きしめた。
「……だって、それは、決まってんじゃん。好き……だからよ」
「そう、大好きなユリナの笑顔が見たいからだよ」
ユリナのすみれ色の瞳が潤んだ。
「ユノア……、カノン」
そんなユリナを慈しむように頬を寄せてユノアは続けた。
「今まで、いっぱいつらいことあったかもしれない……。でも、だからって、生きるのをあきらめないで。あなたが悲しいと、アタシも悲しい。あなたが嬉しいと、アタシも嬉しい。だからアタシは、アタシたちは、ユリナといっしょに
いたい……」

(後略)